東京のど真ん中にこんもりと広がる緑のランドマーク。ビル群が立ち並ぶ東京駅周辺や霞が関、丸の内などの中心で、皇居の森はひときわ大きな存在感を示しています。面積は約115万平方メートル。東京ドーム25個分にあたります。

 その中で、緑がとりわけ生い茂っている一帯が「吹上(ふきあげ)御苑」です。ここで16日、公募で選ばれた人たちを対象にした自然観察会が開かれました。

 午前9時半、吹上御苑への入り口となる「滝見口門」に参加者がやってきました。ここから先は、宮内庁に常駐している担当記者も観察会の取材でなければ入ることはできません。宮内庁職員ですら立ち入りが制限されるそうで、同行した職員も「めったに入れません」と興奮気味でした。大人の背丈よりも高い門をくぐると、見上げるような木々が待ち受けていました。常緑広葉樹が多いため、昼でも薄暗く、まるで別世界に迷い込んだような気分になりました。

 「ここにある巨木の本数は、都内全体の2割を占めているんですよ」。案内役の説明に、参加者から驚きの声が上がりました。高さ30メートルを超えるヒマラヤスギやイチョウの木。泥の斜面をはうように伸びた板状の根「板根(ばんこん)」を持つスダジイ。一つ一つの木々が何かしらの「顔」を持ち、見るものを飽きさせません。

 散策の途中、何ともいえない甘い香りが漂ってきました。説明者によると、メープルシロップがとれるカエデの木から香っているのではないかとのことでした。昔の日本庭園の名残という滝もありました。この近くには蛍が現れるため、ポンプで地下水をくみ上げて水を流し続けているのだそうです。

 御苑内には、あちこちに「一九あ」などと数字とひらがなの表示板が置かれていました。

この吹上御苑は天皇、皇后両陛下の散策コースで、よく早朝に散策し、四季折々の自然を楽しんでいます。皇宮警察官が付き添いますが、森の中でも現在位置が分かるように目印として設置されたそうです。

 その散策中、両陛下が変わった植物を見つけたことがあると聞きました。1994(平成6)年7月のことです。朝の散策中、両陛下は土手の斜面に白い花茎を見つけました。めったに見られない「タシロラン」というラン科の植物とのちに判明したそうです。

 観察会は1時間に及びました。87歳を最高齢に、参加者全員が高齢者でしたが、約800メートルの道のりを元気よく散策。満足げな表情を浮かべていました。

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 吹上御苑は、両陛下のお住まいである「御所」、昭和天皇が住んでいた「吹上大宮御所」などがある地域で、広さは約25万平方メートル。江戸時代には幕府に仕える大名屋敷が立ち並んでいましたが、1657年の明暦の大火(振袖火事)で焼失。その後、火災によって江戸城に延焼するのを防ぐ「火除地(ひよけち)」とされ、日本庭園が整備されました。

 第2次世界大戦の後、昭和天皇の意向を受け、武蔵野のような自然を取り戻そうと、できるだけ手をかけない管理が続けられてきました。両陛下も「なるべく自然のままにしておいて欲しい」との考えで、伐採した木は生えていた場所に戻し、土に返るまで待つそうです。農薬も原則使わないといいます。

 こうした自然を正確に記録しようと、国立科学博物館が1996年、吹上御苑を含む皇居西地区の調査に乗り出しました。その結果、確認された動植物は何と約5千種(植物1366種、動物3638種)。今回の自然観察会は、この調査結果を国民と分かち合いたいという天皇陛下の意向を受けたもので、2007年から毎年春と秋の2回開かれてます。参加者は公募されますが、全国から応募が殺到。今回は2516人の参加希望があり、99人が抽選で選ばれました。

 国立科学博物館の調査では、カワセミ、ベニイトトンボなどの珍しい生き物が確認され、外来種のハクビシンもいたそうです。

 2010年3月には、吹上御苑でアライグマが捕獲されました。都心での捕獲は例がなく、専門家も首をかしげていました。昨年5月には、皇居周辺の石垣のすき間でタヌキが目撃されました。皇居にはタヌキが戦前から生息していたようで、記者も遭遇したことがあります。